Heat Stroke

熱中症

環境」と「からだの状態」が熱中症の2大要因

気温の高い環境にいることで体温を調節する機能が狂ったり、体内の水分や塩分のバランスが崩れたりすることで起こる、めまいや頭痛、けいれん、意識障害などの症状をまとめて「熱中症」といいます。熱中症を引き起こす要因には、「環境」によるものと「からだ」によるものがあります。

環境の要因 気温や湿度が高い、風が弱い、日差しが強いなど
からだの状態 激しい運動などにより体内でたくさん熱が産生された暑さにからだが慣れていない疲れや寝不足、病気などで体調がよくない

「環境」と「からだ」の要因が重なったときに熱中症が起こりやすくなると考えられています。
注意が必要な時期は、梅雨の晴れ間や梅雨が明けてすぐ、しばらく涼しい日が続いた後急激に暑くなった日などです。
注意が必要な場所は、運動場、公園、海やプールなど、強い日差しが当たる屋外や、駐車場に止めた車の中、体育館、気密性の高いビルやマンションの最上階など。浴室やトイレ、寝室など、家庭内の風通しの悪い室内でも起こりやすくなります。

熱が放出されず体内にこもることで症状が起こる

体温調節機能の乱れや、体内の水分が失われることが原因に

運動や作業をすると私たちのからだの中で熱が生まれます。ただし、人間のからだには体温調節機能が備わっているため、体温が上がり過ぎたときには、自律神経の働きによって末梢の血管が拡張し、皮膚に多くの血液が流れ込むことで熱をからだの外に放出します。同時に、体温が上がったら汗をかき、その汗が蒸発するときにからだの表面から熱を奪うことで、上がった体温を下げようと働きます。

ところが、あまりに暑い環境に長くいると、体温調節機能が乱れて体外への熱の放出ができなくなり、体内に熱がこもって体温が上昇します。また、急激に大量の汗をかくと、体内の水分と塩分が失われ、体液のバランスが崩れてしまいます。それが筋肉や血流、神経などからだのさまざまな部分に影響をおよぼすと、けいれんやめまい、失神、頭痛、吐き気といった熱中症の症状があらわれるのです。

高齢者や乳幼児、持病のある人は要注意

熱中症になりやすい人として、高齢者や乳幼児、運動習慣がない人、太っている人、体調がよくない人、暑さに慣れていない人などが挙げられます。特に高齢者や乳幼児は、体温調節機能の衰えや未熟さによって体内に熱がこもりやすい(体温が上がりやすい)上、暑さを自覚しにくいこともあるため、リスクが高いといえます。子どもは大人よりも身長が低く地面に近い分、アスファルトの照り返しなどによる熱の影響を受けやすくなることも要因のひとつです。また、心臓病、糖尿病、高血圧、腎臓病、精神神経疾患、皮膚疾患などの持病も、体温調節機能の乱れの原因となることがあり、ハイリスク要因に。病気の治療のために薬を服用している場合も、薬の種類によって発汗の抑制や利尿作用があるものがあり、熱中症の原因になることがあります。

筋肉のけいれんや立ちくらみ、頭痛などがみられたら注意

熱中症の症状と重症度

熱中症は、軽い症状から命にかかわる重症なものまで、段階的にいくつかの症状がみられます(下記の表参照)。軽いものでは、立ちあがったときなどにクラッとする立ちくらみや、呼吸や脈が速くなる、くちびるのしびれなどがあらわれることがあります。また、大量の汗をかいて体内の水分と塩分が不足すると、足や腕、腹などの筋肉に痛みを伴うけいれんが起こることがあります。ほかにも、脱水症状によってだるさ、頭痛、めまい、吐き気などの症状が見られることも。さらに症状が進むと、40度以上の高熱、意識障害、けいれん、異常行動などを起こすことがあり、この状態を熱射病といいます。脳内の温度が上昇することで中枢神経に異常が起こり、からだのさまざまな臓器に障害が出て、命を落とすこともある危険な状態です。

分類 症状 重症度
I度 ・めまい・失神
「立ちくらみ」という状態で、脳への血流が瞬間的に不充分になったことを示し、“熱失神”と呼ぶこともあります。 ・筋肉痛・筋肉の硬直
筋肉の「こむら返り」のことで、その部分の痛みを伴います。発汗に伴う塩分(ナトリウムなど)の欠乏により生じます。これを“熱けいれん”と呼ぶこともあります。 ・大量の発汗
軽度
II度 ・頭痛・気分の不快・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感
からだがぐったりする、力が入らないなどがあり、従来から“熱疲労”“熱疲弊”と言われていた状態です。
中度
III度 ・意識障害・けいれん・手足の運動障害
呼びかけや刺激への反応がおかしい、からだにガクガクとひきつけがある、真直ぐ走れない、歩けないなど。
・高体温
からだに触ると熱いという感触です。従来から“熱射病”や“重度の日射病”と言われていたものがこれに相当します。
重度

最初は体温が上がらないことも

熱中症になっても、軽症のうちは体温が高くならないこともあります。ただし、最初は軽症でも、放置するとあっという間に重症化することもあるため、油断は禁物。「熱が高くないから大丈夫」と思い込まず、ほかのからだの症状をよく観察しましょう。「おかしい」と感じることがあったらまずは体温を測ることをおすすめします。ふだんより1度以上高い場合は要注意。涼しいところで横になるなどしてからだを休め、熱が下がるまで様子をみましょう。

熱中症になったらどうする?

夏は室内外問わず、熱中症への注意が必要です。熱中症の症状がみられたら、まずは涼しい場所で安静にし、水分・塩分を補給をしましょう。熱中症は命に関わることがあります。激しい頭痛や高熱など、症状が重いときはすぐ病院へ行きましょう。熱中症は症状に応じて素早く適切な処置を行うことが大切です。

医療機関での受診をおすすめする場合

激しい頭痛や吐き気、40度近い高熱など症状が重い場合は速やかに受診しましょう。また、自力で水分がとれない、異常行動や意識障害がみられる、けいれんを起こしているなどの場合は、一刻も早い対応が必要なため、救急車を呼んでください。

セルフケアできる場合

症状が軽く自力で水分補給でき、意識がはっきりしていて、涼しいところでしばらく安静にして改善される場合は、セルフケアで様子をみましょう。

重症度別の対応方法

分類 症状 対応方法
I度 めまい・失神(立ちくらみ)・筋肉痛・筋肉の硬直(こむら返り)・大量の発汗 すぐに涼しい場所に移してからだを冷やし水分・塩分を与える
II度 頭痛・気分の不快・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感 自分で水分・塩分をとれない場合は、すぐに病院に搬送する
III度 意識障害・けいれん・手足の運動障害・高体温 すぐに病院に搬送する

涼しい場所で衣服をゆるめ、水分補給を

立ちくらみ、めまい、筋肉のけいれん、倦怠感、脱力感など熱中症を疑う症状がみられたら、まずは風通しのよい日陰やエアコンのきいた室内に移動します。すぐに冷たい水や塩水、スポーツドリンクなどを飲み、横になってからだを休めましょう。衣類の襟元をゆるめたり、脱いだりして、うちわや扇風機で風をあてたり、氷や氷嚢でからだを冷やしてもいいでしょう。冷やす場合は、首筋やわきの下、足の付け根、足首など動脈が通っている部分を冷やすのが効果的です。

栄養補給のためにビタミンB群の摂取もおすすめ

熱中症になったら、体力回復のために栄養補給することも大切です。栄養素からエネルギーを産み出す代謝(TCAサイクル)の助けになるのは、ビタミンB1やB2、B6などのビタミンB群です。なかでもエネルギー源となる炭水化物の分解・吸収に欠かせないビタミンB1は、食事のほか、栄養ドリンクなどで補給してもいいでしょう。

その他、熱中症のセルフケア

十分な睡眠や休養、栄養をとり、体力の回復を図りましょう。毎日の生活のなかで、涼しく過ごす工夫やこまめな水分補給を心がけ、暑さに負けない健康なからだづくりをしておくことも大切です。

熱中症の予防するには?

熱中症は、重症化すると命にかかわることもあるこわい症状です。日常生活の工夫やちょっとした注意を忘れず、予防を心がけましょう。

熱中症予防のためのガイドラインを参考に

暑さ指数(WBGT)」と「熱中症予防指針」

熱中症予防のために、「どのような温度環境でどのように過ごしたらいいか」という指針となるものが2つあります。ひとつは、温度の指標となる「暑さ指数(WBGT)」と呼ばれるもの。アメリカにおいて提唱された指標で、気温・湿度・輻射熱という3つの要素から算出します。熱中症に注意が必要な季節(毎年6月~9月ごろ)になると環境省のホームページで各地の実況値と予測値を公開しています。もうひとつは、日本生気象学会による「日常生活における熱中症予防指針」です。WBGTによる参考温度を基準に、危険度の目安と日常生活をおくるときの注意点などを示しています。生活や外出などの参考にするといいでしょう。

急に暑くなった日は要注意

人間のからだには、もともと環境への適応能力が備わっているため、暑い環境でも数日過ごすうちに自律神経の働きがよくなり、汗を上手にかけるようになったり、体温調節ができるようになっていきます。ただ、涼しい日が続いた後に急に暑くなった場合などは、からだがまだ暑さに慣れていないことで、うまく適応できずに熱中症になってしまうのです。そのため、梅雨の晴れ間など急に暑くなった日は注意が必要です。

運動中や仕事中以外に、生活の中で起こる熱中症も多い

熱中症と聞くと、炎天下でスポーツをしたり、無理な作業をしたりすることで起こると考えている人も多いでしょう。しかし実際には家庭内で、日常生活の中で起こる熱中症も多くあります。特に高齢者や乳幼児は、エアコンのない室内や風通しの悪い場所にいると、あまり動かず静かにしているときや、寝ているときなどにも熱中症を起こす危険もあるため、気をつけましょう。こまめに室温を測り、風通しや服装に注意して過ごすことが大切です。

暑さを上手に避けて生活する工夫を

エアコンを賢く活用する

エアコンをつけて温度設定していても、センサーの場所や感度によって設定温度が正確ではないこともあります。人が過ごしている場所の気温が正しく測定できるように配慮し、室内の人数や行動、服装などにあわせて温度を設定しましょう。目安としては、28度を超えないように設定しておくと安心です。エアコン使用時は、冷風が直接人に当たらないように注意が必要です。冷気は部屋の下のほうにたまりやすいので、扇風機などを利用して風を動かすと、あまり室温を下げなくても涼しく過ごせます。カーテンやすだれなどで直射日光を遮る、冷気を外に逃がさないなどの工夫もエアコンの効果的な利用につながるといえるでしょう。

冷やしすぎにも注意が必要

エアコンの活用は熱中症予防に効果的ですが、冷やしすぎはよくありません。室内の気温をあまり下げてしまうと、涼しい部屋から暑い屋外などに出たときに、急激な気温差にからだが適応できず、めまいや気分の悪さなどが引き起こされることがあります。からだに負担をかけないためにも、あまり設定温度を低くしすぎない(24℃以下にならない)ようにしましょう。

家庭内の「風通しの悪い場所」をチェック

家の中でも風通しの悪い場所は熱気がこもりやすく、熱中症の原因になることがあります。しめきった寝室、浴室、トイレ、火を使って調理するキッチンなどは、時々ドアをあける、扇風機や換気扇を回すなど、意識して風通しをはかることが大切です。

水分補給の重要性

こまめに水分補給を

暑いときにはたくさん汗をかきます。汗をかくことは、からだの熱を逃がし体温が上がりすぎないように調節するために必要なことですが、汗をかけば体内の水分と塩分が失われることになります。それによって血液の流れが悪くなり、脳やからだのすみずみにまで酸素や栄養が届きにくくなるため、筋肉のけいれんや頭痛、吐き気、めまいが起こったり、高熱が出たりします。予防するためにはこまめな水分補給が不可欠ですが、水分だけをとると塩分が不足して血液が薄い状態になってしまうため、塩分も一緒にとることが必要です。目安としては、コップ1杯(200ml)の水に、ひとつまみ(0.2g)の塩を入れた塩水か、ナトリウム40~80mg/100mlのスポーツドリンクがよいとされています。

のどが渇かなくても飲みましょう

脱水症状のサインとして、のどの渇き、汗や尿の量が減る、尿の色が濃くなるなどの症状が挙げられますが、軽い脱水状態ではのどが渇かないこともあります。特に高齢者は脱水症状が進んでいても、のどの渇きを感じにくいことがあるため、飲みたいと思わなくても、外出や運動、入浴、睡眠などの前に水分をとり、後にもとることを心がけましょう。ただし、高齢者は水分のとりすぎによって心臓に負担がかかることもあり、注意が必要な人もいます。持病のある人は水分のとり方について主治医に相談しましょう。

利尿作用のある飲み物に注意

飲むものは水、麦茶、塩水やスポーツ飲料などが望ましいでしょう。それ以外に好きな飲み物を飲んでもいいですが、カフェインを含むお茶やコーヒー、アルコールを含む酒類には利尿作用があり、かえって脱水症状を進めてしまう危険もあります。利尿作用のあるものは飲み過ぎないよう注意が必要です。

涼しく過ごせるよう服装を

吸湿性、通気性のよい素材の衣類を選ぶ

少しでも涼しく過ごすためには、汗を吸い、通気性のよい綿素材の衣類が適しています。近年、多く市販されている吸汗素材、速乾素材のシャツや、軽く涼しいタイプのスーツなどもおすすめです。首回りがしめつけられると熱がこもってしまうため、なるべくネクタイを外し、襟元をゆるめて風を通しましょう。それだけでも体感温度は下がると考えられます。

暑いから着ない」は逆効果

暑いなら、「いっそ何も着ないで過ごすほうが涼しくていいのでは?」と考える人もいるかもしれませんが、それは逆効果です。衣類は、汗を吸って蒸発させるのを助けるほか、直射日光の熱や紫外線から肌を守る役割も果たしています。

出典:第一三共HP