胃がんとは?
胃がんは、胃の壁の最も内側にある粘膜内の細胞が、何らかの原因でがん細胞になって無秩序に増殖を繰り返すがんです。胃がん検診などで見つけられる大きさになるまでには、何年もかかるといわれています。大きくなるに従ってがん細胞は胃の壁の中に入り込み、外側にある漿膜やさらにその外側まで広がり、近くにある大腸や膵臓にも広がっていきます。がんがこのように広がることを浸潤といいます。
胃がんの検査と診断
胃がんが疑われると、胃X線検査や内視鏡検査を行います。胃がんが他の臓器まで広がっているかどうかを調べる検査としては、胸部 X 線検査、腹部超音波(エコー)検査、CT 検査、MRI 検査、PET 検査、注腸検査などがあります。
胃X線検査(バリウム検査)
バリウムをのんで、X線で胃の形や粘膜の状態をみます。手術の前に胃がんの状態を詳しく診断する方法としては、徐々に内視鏡検査のほうが中心になってきており、特に内視鏡治療を行う場合は、胃X線検査が省略されることもあります。
内視鏡検査
口、あるいは鼻からファイバースコープで胃の内部を直接みて、がんが疑われる場所の病変の範囲や深さを調べる検査で、胃カメラ検査とも呼ばれます。がんが疑われる場所の組織の一部を採取して、がん細胞の有無を調べる病理検査もします。
CT検査、MRI検査
治療前に病変の広がりや転移の有無を調べるために行う検査です。CT検査はX線を、MRI検査は磁気を使って体の内部を描き出します。
CT検査やMRI検査で造影剤を使用する場合、アレルギーが起こることがありますので、以前に造影剤のアレルギーを起こした経験のある人は、検査前にドクターに申し出てください。
PET検査
放射性物質を含んだブドウ糖液を注射し、その取り込みの分布を撮影することで全身のがん細胞を検出するのが PET検査です。他の検査で転移・再発の診断が確定できない場合に行うことがあります。
注腸検査
お尻からバリウムと空気を注入し、大腸の形をX線写真で確認する検査です。胃のすぐ近くを通っている大腸にがんが広がっていないか、腹膜転移が生じていないかなどを調べます。検査中に、大腸の中に空気が入ると、下腹部の張り感を強く感じることがあります。
腹膜転移とは
胃がんの腹膜転移とは、がん細胞が胃の外側からおなかの中にこぼれ落ちて、肝臓、腸、膀胱、卵巣などを包んでいる腹膜(漿膜)に付いて増殖した状態です。腹水がたまったり、腸の動きが悪くなったり、腸が狭窄を起こすこともあります。
胃がんの病期(ステージ)について
病期とは、がんの進行の程度を示す言葉で、英語をそのまま用いて「stage(ステージ)」という言葉が使われることがあります。病期にはローマ数字が使われ、I 期(IA、IB)、II期(IIA、IIB)、III期(IIIA、IIIB、IIIC)、IV期に分類されています。病期は、がんが胃の壁の中にどのくらい深くもぐっているのか(深達度)、リンパ節や他の臓器への転移があるかどうかによって決まります(転移については、13ページ「7. 転移」の項目をご覧ください)。病期と患者さんの状態などを参考に治療方法が決定されます。
がんの深さが粘膜下層までのものを「早期胃がん」、深さが粘膜下層を越えて固有筋層より深くに及ぶものを「進行胃がん」といいます。がんが胃の壁の内側から外側に向かって深く進むに従い、転移することが多くなります。治療前の検査によって病期が評価され、治療方針が決まりますが、手術のときにおなかの中を直接みて転移などがはじめて見つかることもあります。
胃がんの治療
胃がんの治療は、病期に基づいて決まります。次に示すものは、胃がんの病期と治療方法の関係を表す図です。日本胃癌学会の『胃癌治療ガイドライン』もご参照ください。担当医と治療方針について話し合う参考にしてください。
手術(外科治療)
胃がんでは、手術が最も有効で標準的な治療です。胃の切除と同時に、決まった範囲の周辺のリンパ節を取り除きます(リンパ節郭清)。胃の切除の範囲は、がんのある場所や、病期の両面から決定します。また、胃の切除範囲などに応じて、食べ物の通り道をつくり直します(消化管再建)。リンパ節に転移している可能性がほとんどない場合には、手術ではなく、内視鏡による切除(内視鏡治療)が行われることもあります。
腹腔鏡下胃切除(ふくくうきょう)
腹腔鏡手術は、腹部に小さい穴を数カ所開けて、専用のカメラや器具で手術を行う方法です。通常の開腹手術に比べて、手術による体への負担が少なく、手術後の回復が早いことが期待されているため、手術件数は増加しています。『胃癌治療ガイドライン』では、治療前の診断の臨床病期がステージⅠで幽門(胃の出口)側胃切除術が適応となる場合は、腹腔鏡下胃切除術も治療法の選択肢の1つとなりますが、手術の方法によっては臨床試験による十分な治療成績が明らかにされていません。開腹手術と比べて、リンパ節郭清が難しいこと、消化管をつなぎ直す技術の確立が十分とはいえないことなどから、通常の手術に比べて合併症の発生率がやや高くなる可能性も指摘されています。また、がんがどれくらい治るかについての長期成績がまだ出ていないのが現状です。
内視鏡治療
おとなしいタイプのがん細胞の場合で、病変が浅く、リンパ節に転移している可能性が極めて小さいときには、内視鏡を用いて胃がんを切除する内視鏡的粘膜切除術(EMR)や、内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)などの方法があります。これらの治療後には、内視鏡による切除が十分かどうかを病理検査で確認します。不十分な場合は胃を切除する手術が追加で必要になります。内視鏡治療が可能かどうかについては適応が定められています。
化学療法
胃がんの化学療法には、手術と組み合わせて行われる補助化学療法と、手術による治癒が難しい状況で延命や症状コントロール目的で行われる化学療法があります。再発予防のために手術後、目に見えない微小ながんに対して行われる術後補助化学療法の対象は II期/ III 期(T1および、リンパ節転移のないT3 を除く)であり、S-1※1という抗がん剤を内服する治療が標準治療※2となっています。
化学療法では、フルオロピリミジン系薬剤(フルオロウラシル[5-FU]、S-1、カペシタビンなど)、プラチナ系薬剤(シスプラチン、オキサリプラチン)、タキサン系薬剤(パクリタキセル、ドセタキセル)、塩酸イリノテカンなどの抗がん剤が単独または組み合わせて用いられます。また、胃がんの10~20%では、「HER2(ハーツー)」と呼ばれるタンパク質が増殖に関与しているため、HER2 検査が陽性の場合は、分子標的薬のトラスツズマブを併用した化学療法が行われます。化学療法の副作用は人によって程度に差があるため、効果と副作用をよくみながら行います。化学療法は、臨床試験に参加して治療を行う選択肢もあります。
※1 S-1(TS-1):テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウムの3成分を配合した薬
※2 標準治療:治療効果・安全性の確認が行われ一定の成績が期待される治療
抗がん剤の副作用
抗がん剤はがん細胞だけでなく、正常な細胞にも影響を及ぼします。特に髪の毛、口や消化管などの粘膜、あるいは血球をつくる骨髄など新陳代謝の盛んな細胞が影響を受けやすく、その結果として、脱毛、口内炎、下痢が起こったり、白血球や血小板の数が少なくなったりすることがあります。その他、全身のだるさ、吐き気、手足の腫れ、色素沈着、しびれ、心臓への影響として動悸や不整脈、また肝臓や腎臓に障害が出ることもあります。副作用が著しい場合には治療薬を変更したり、治療の休止、中断を検討することもあります。
IV期の胃がんに対する治療
IV期の胃がんは、遠隔転移を伴っており、がんをすべて取り除くことを目標とする手術は難しいと考えられるため、化学療法(抗がん剤治療)が中心となります。病状によっては、遠隔転移があっても、胃がんだけを切除する手術(減量手術)を行ったり、がんからの出血や狭窄のために食事が十分にとれないときは、病変がある胃を切除したり、食物の通り道をつくるバイパス手術が行われる場合もあります。
胃がんの経過観察
治療を行った後の体調確認のため、また再発を疑わせる症状がないかどうか調べるために定期的に通院します。治療後の通院予定は、胃がんの性質や進行度、治療内容と効果、追加治療の有無、体調の回復や後遺症の程度などによって、受診と検査の間隔が決まります。胃全摘の手術を受けた場合は、胃液に含まれる成分がなくなるためにビタミン B12 が小腸で吸収できなくなります。これは内服薬では補えないので、ビタミン B12 の注射を受ける必要があります。
胃がんの転移
転移とは、がん細胞がリンパ液や血液の流れに乗って別の臓器に移動し、そこで成長したものをいいます。最も多い胃がんの転移はリンパ節転移で、早期がんでも起こることがあります。リンパ節転移は、手術で広い範囲のリンパ節を完全に取り除いて治る可能性のある転移です。次に多いのは腹膜転移と肝転移で、進行したがんの一部にみられます。これらの転移は治療が難しいという問題点があります。また、がんを手術で全部切除できたようにみえても、その時点ですでにがん細胞が別の臓器に移動している可能性があり、手術した時点では見つけられなくても、時間がたってから転移として見つかることがあります。
胃がんの再発
再発とは、初回の手術で目で見える範囲の胃がんをすべて取り除いた後や、化学療法を終えた後、時間が経過して、治療をした場所にがんが出現したり、別の臓器や胃から遠く離れたリンパ節に転移が発見されることをいいます。
再発といってもそれぞれの患者さんでの状態は異なりますが、化学療法による治療を行うことが一般的です。それぞれの患者さんの状況に応じて治療やその後のケアを決めていきます。